1023桜井博志著『逆境経営――山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法――』

書誌情報:ダイヤモンド社,vi+208+(グラビア)頁,本体価格1,500円,2014年1月17日発行

逆境経営―――山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法

逆境経営―――山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法

  • 作者:桜井 博志
  • 発売日: 2014/01/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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遅ればせながら今年の4月に山口・湯田温泉で「獺祭(だっさい)」――ラベルなどの「獺祭」は山口県出身の書家・山本一遊(いちゆ)による(58ページ)――を口にし,「磨き 三割九分」を手に入れた。「山口県の山奥にある酒蔵」・「山口の山奥の小さな酒蔵」旭酒造は「純米大吟醸 獺祭」で今をときめく酒造会社になった。その三代目社長の著者による「獺祭」誕生と経営のあれこれを綴ったのが本書である。
純米大吟醸に特化することで傾きかけた会社を立て直し,一年を通じて酒造りをする「四季醸造」を実現した。杜氏依存の酒造りから技能集団を擁する酒造会社に転換させるには試行錯誤があったことがよくわかる。職人による手仕事を大事にしつつ,「上槽(じょうそう)」という工程に遠心分離機を使って無圧力状態で酒を分離したりという伝統と手法の使い分けは目を開かされた。「酒造りにおいて一般受けする「杜氏の勘や経験」をことさら言い募らず,数値に落とせることはすべて数値に落とし,理論で解析できるところは理論で解析し,そのうえで人間にしかできないことを人間が判断する」(84ページ)というのだ。
山田錦を確保するための産地や農協とのかけひき,外国に輸出するための関税障壁,日本酒への偏見への挑戦など「獺祭」から学ぶべきことは多い。
「獺祭」の売上の約40%は首都圏であり,世界20カ国にも輸出し,年間1万6000石(評者は知らなかったが,一升瓶100本で一石と計算するのが日本酒の常識)にもなる。「がんばらないけど,あきらめない」(112ページ)という著者の言葉が「獺祭」の味の特徴である「きれいな甘み」を持っていた。
「獺祭」は酒蔵のある地名・獺越(おそごえ)に由来し,正岡子規の「獺祭書夜主人」からではないとのこと。もっとも著者は松山商科大学(現松山大学)で学んだこともあって子規の進取の精神に共鳴しているという。