1705五十嵐彰・迫田さやか著『不倫——実証分析が示す全貌——』

書誌情報:中公新書(2737),223頁,本体価格820円,2023年1月25日発行

インターネット調査で収集された6,651人の日本人既婚者対象の調査である。「大規模調査」といえるかどうかは別にして,不倫に関する実証分析にはちがいない。
どのくらいの人がしているのか,誰が誰としているのか,なぜ終わるのかあるいは終わらないのか,誰が誰を非難するのか,「大規模調査でわかった赤裸々な現実」(帯より)は意外に想定内だった。
日本における不倫割合は特殊ではないこと,男女間では男はセックスの,女は人格への満足感が不倫の実行と関係していること,不倫においてはサーチコスト理論があてはまらないこと,不倫にたいする非難を低減させる条件を揃えることは難しいことなどを分析結果として示している。不倫という学術的には敬遠されるテーマに挑戦しており,「不倫に関して人々の話題になるトピックはおおよそ網羅した」(「あとがき」200ページ)とはいえる。
本書でも触れられていた合理主義経済学におけるベッカー(BECKER, Gary)やフェア(FAIR, Ray C.)の研究はアプローチがまったく異なる。たとえば,フェアの理論は,1日24時間のうち自分の妻と何時間,それ以外の不倫相手と何時間いるようにしたときに,もっとも高い効用が得られるかという前提で組み立てられていた。本書が,教育投資の経済学,人種差別の経済学,犯罪の経済学,結婚の経済学,自殺の経済学,そして婚外交渉の経済学という70年代の経済学とは一線を画してした。