297山本英司著『カレツキの政治経済学』

書誌情報:千倉書房,228頁,本体価格3,800円,2008年3月18日発行

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ケインズに先立って有効需要理論を提起し,ポスト・ケインジアンの思想的源泉と称されもするポーランドの政治経済学者ミハル・カレツキの研究書である。ほぼ彼の生涯にそって,景気循環論,開発経済学,比較経済体制論,マルクス主義的理論についてまとめている。
前に触れたドスタレールの大著では,カレツキへの言及は3箇所にすぎなかったが,ケインズ理論の好対照として論じられていた。カレツキ理論が「ケインズの理論に類似し,さらにいくつかの点ではそれよりも優れていた理論」(ドスタレール413ページ),1933年にはすでに「『一般理論』の本質的な要素を含むモデルを簡潔かつ形式化されてかたちで提示していた」(561ページ)こと,「ポスト・ケインズ派の一部は,ケインズ以上にカレツキこそが彼らの着想の真の源泉であると主張してさえいる」(563ページ)ことを明らかにしていた。
カレツキが「忠実かつ非教条的なマルクス主義者」(本書194ページ)であったとするなら,「幸運にも古典派の理論にまったく接触したことがなく,マルクスとローザ・ルクセンブルクだけを知っていた」(ドスタレール413ページ)カレツキの独自性が浮き彫りになるだろう。