653伊藤邦武著『経済学の哲学――19世紀経済思想とラスキン――』

書誌情報:中公新書(2131),vii+257頁,本体価格840円,2011年9月25日発行

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人間と環境との共存という今日的課題を19世紀に提起した著述家がいた。ジョン・ラスキン(1819-1900)である。文化経済学の系譜では芸術経済論として「固有価値論」を提起し,同時にそれを享受しうる能力の意味を問い,学習と教育を強調した経済学者として知られている。
本書はそうした系論にも触れつつ,エコノミー批判からエコロジーを説くラスキンの全体像を示そうとしている。伝統的経済学(リカードウ,J.S.ミル,ジェヴォンズ)批判から「きれいな空気と水と大地」を追究したラスキンを新しいエコノミーの提唱者として復権させる試みといってもいい。
モリスやプルーストらの芸術経済論におけるラスキンの影響だけでなく,経済観(労働観)がガンディーへ,ガンディーからアルネ・ネス(ノルウェーの哲学者)に継承され,ディープ・エコロジーに繋がる太い線も描きこまれている。
もっともラスキンエコロジー思想は当時の伝統的経済学批判を通した人間中心の社会理論として展開されていることを指摘し,現代的ラディカル・エコロジーとは一線を画すべきこともしっかりと分別している。