004竹内理編著『認知的アプローチによる外国語教育』

書誌情報:松柏社,2000年1月15日,166頁,本体価格2,400円

認知的アプローチによる外国語教育

認知的アプローチによる外国語教育

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーショ ン』第8号,柏書房,2000年6月5日

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著者たちはすでにCD-ROM版『かんたんマルチメディア 英検2級合格宣言』(松柏社,1998年)を出しており,本書はいわばその理論編にあたる。外国語能力をいかに伸ばすか,外国語習得をいかに容易にするか。著者たちの思いはここにある。
著者たちの共通認識は,認知的思考の獲得と言語の獲得過程の相違を認め,母語獲得と外国語習得とは違いがあるとすることである。冒頭の「言語脳と言語獲得」が総論,その後につづく各章の「聞く」,「見る」,「読む」が各論部分をなし,それらを総合して外国語教育のあり方を展望している。
それぞれの章ではまず脳機能のメカニズムに言及し,認知的アプローチの意義を明らかにしている。いずれもこれまでの研究成果をおさえ,慎重に方向性を探っている。たとえば,「聞く」では,インターネットをはじめとするメディアの発展がありながらも,「信頼できる指針」がないことを指摘しているし,「見る」についても映像・視覚情報の多用が必ずしも外国語の習得に有効ではないことを指摘している。また,「読む」ことがこれからの外国語教育に必要だとする問題提起もおもしろい。
外国語教育を実りあるものにするために,著者たちが展望するのは,年齢に応じたプログラムの開発,反復練習の効果やスキーマの活性化など複合的視点である。ひとつのありうる可能性を,デジタルメディアの有効利用に期待するのはこのかぎりで説得的である。
従来経験的にいわれてきていながら本書で触れられていないのが,かのシュリーマンの外国語習得法のひとつでもあった「書く」ことについてである。著者たちの認知的アプローチと外国語教育とにどう関係するのだろうか。興味がつきない。