003経済学史学会第71回大会第1日

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第4分科会第2報告江里口拓(愛知県立大学)「ウェッブ夫妻ナショナル・ミニマム論と自由貿易」を聴く。ウェッブが構想した「ナショナリズムに立脚した国際主義」をナショナル・ミニマム論から検討した報告だ。ナショナル・ミニマムとして国内福祉を重視することがナショナリズムに結果するわけではないこと,保護主義を要求するものではなく自由貿易論と両立しえることをウェッブに即して分析していた。ウェッブの主張をポジティブに評価するかぎりではなるほどと思うが,ウェッブと報告者との距離が最後までわからなかった。
第4報告植村邦彦(関西大学)「マルクスの『土台/上部構造』論」では司会をつとめた。報告者は,マルクスの有名な「土台/上部構造」がハリントン,ファーガソンやスミスなど先行学者も使用しており,いわば建築用語として使われていた日常語だったことと「経済学批判序言」の使用例以外にも多様な使用例があることを紹介する。そのうえで,「土台/上部構造」は土台が上部構造を規定するなどとする使用例はなく社会構造分析の「暗喩」であると理解すべきだと分析する。マルクスの「土台/上部構造」論は問題解決の優先順位を指示する行為遂行的な言説(アジェンダとしての「土台/上部構造」)と結ぶ。「土台/上部構造」論を思想史的系譜に再定置したところに本報告の意義がある。
紹介した2報告を含めすべての報告は下記で読むことができる。
http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shet/conference/71th/conf71j.html
明日は引き続き午前中に自由論題の分科会と午後に2つのフォーラム(「イギリス経済学における方法論の展開」と「ドイツ語圏経済思想史の新たな地平」)があるが,評者は出席できず(別件所用のため福岡から東京に移動した)。
来年の第72回大会は2008年5月24日(土)・25日(日)の両日愛媛大学で開催される。