021東京大学大学院経済学研究科所蔵「古貨幣・古札画像データベース【試行版】」

日本経済新聞』2007年5月31日付「文化往来」に,「東大所蔵の古貨幣,ネットで画像公開」のコラムが出ていた。

東京大学大学院経済学研究科は,所蔵する古貨幣コレクションをデータベース化,このほどインターネット上で公開を始めた。コレクションの性格上,実物展示が難しかったが,歴史研究者らの声にこたえ,デジタル技術を利用して公開に踏み切った。一枚ごとの詳細な画像が見られる。
古貨幣コレクションは約1万2千点の古貨幣を中心とする藤井栄三郎コレクション,藩札など2万5千点の古札で構成する安田善次郎コレクションの日本柱。ともに学術的観点から体系的に収集されているという。
藤井氏は化学工場を経営する傍ら明治末年ころから収集を志した。半数を中国貨幣が占め,特に戦国時代の刀幣,布銭など唐以前の古代貨幣は日本銀行貨幣博物館のコレクションに次ぐ規模を誇る。一方,安田財閥の二代目善次郎氏は古書収集家としても知られる。ともに昭和初期に寄贈されていたが,安全上の問題などがあって現在まで公開できずにいた。
藤井氏は,古貨幣が歴史研究の有効な手立ての一つとして活用されていないことを嘆き,大学に寄贈することを決意。「我が最高学府に銭幣の実物有らず,故に学者史上に記す所の銭幣,其の名を知りて其の物を識(し)らず,常に隔靴掻痒(かっかそうよう)の嘆有り」と記したという。(ルビを括弧に入れて引用した。)

関連文献の一つ,小島浩之「八十年越しの夢:東京大学大学院経済学研究科所蔵『古貨幣・古札画像データベース』の公開によせて」を読むと,平成18年度科学研究費補助金研究成果公開促進費)を得て公開したもので,「試行版」の名が示すように全部ではない(公開日は2007年4月16日)。また,小島「東京大学大学院経済学研究科の古貨幣・古札について」では,(1)整理が昭和50 年代のため,中国におけるその後の研究成果が反映されていない,(2)分類についても現在の研究成果との間に断絶があり,名称が現在一般的なものと異なっている,(3)金文の誤読,誤釈がある,(4)刀銭において最大長を計測していない,などの問題点も判明し,1980年代以降の日中貨幣史研究の成果をふまえた修正作業を開始したとのことだ。
データベースには,古貨幣11,317件,古札4,210件登録されており,前者については「国名・地域名」「名称」「ケース番号」「発行地」「発行年代」「材質」「画像」から,後者については「道名」「国名」「札種」「ケース番号」「発行年」「額面」「引換所名」「適用地域」「画像」からそれぞれ検索できる。いずれについても分類項目を事前にしらないと検索窓にインプットできないから片っ端から検索できるシステムではない。すべての項目についてポップアップ式にするなど使い勝手の工夫はありえるように思う。
試行版とはいえ,引用にあるように「学者史上に記す所の銭幣,其の名を知りて其の物を識(し)らず」を脱する貴重な試みと高く評価できる。
東京大学大学院経済学研究科所蔵「古貨幣・古札画像データベース【試行版】」(http://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/shiryo/kahei.html