062広瀬隆著『持丸長者[幕末・維新篇]――日本を動かした怪物たち――』

書誌情報:ダイヤモンド社,373頁,本体価格1,800円,2007年2月1日

持丸長者[幕末・維新篇]―日本を動かした怪物たち

持丸長者[幕末・維新篇]―日本を動かした怪物たち

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「人びとは金のことを,その丸い形から丸と呼び,人指し指と親指で○をつくって符牒とした。百年の星霜が流れ去って使われなくなったが,かつては,大金持ちを『持丸長者』と呼び習わした」(3ページ)。日本の近現代史を「持丸長者」に焦点を合わせた『持丸長者』3部作の幕末・明治維新篇だ。著者の得意とする閨閥によるネットワーク論を駆使した日本版といっていい。『赤い楯』(1991年,文庫版96年asin:4087483827asin:4087483835asin:4087485544asin:4087485552)ではロスチャイルド家を扱い,『アメリカの経済支配者たち』(99年,asin:4087200078),『世界金融戦争』(02年,asin:4140807261),『世界石油戦争』(02年,asin:4140807024)でも閨閥を中心とした人脈と利害の相克を描いた。
本書は,武田信玄徳川家康時代からの閨閥をたどり,ペリー来航による衝撃を経て財閥の形成と軍閥の台頭によるアジア侵略にいたる道筋を描く。「口先の天才」勝海舟や彼に劣らぬ井上馨などとする評語や明治維新を「ブルジョワ封建社会」と特徴づけるなど歴史書にはない読み物としてもおもしろい。「みな仲良くして,みなもうかる。すばらしい財閥のつながり」(287ページ)の詳細こそ著者の閨閥論がもっとも生き生きと叙述されている部分だ。
本書には閨閥だけでない幕末・維新期の経済史・産業史・金融史に欠かせない図表も多い。

図・表・系図 項目
図1 江戸時代の貨幣の種類と交換比率
図2 近江周辺の地図
図3 江戸時代の米価【幕末を除く全期】
図4 江戸時代の米価【改鋳時代】
図5 武田信玄の貨幣の種類と交換比率
図6 甲州金山の地図
図7 北前船と東廻り航路地図
図8 横浜貿易商と甲州財閥の出身地
図9 外国承認の通貨交換利益
図10 江戸時代の米価【幕末・幕府倒壊】
図11 関西五綿と10大総合商事の変遷
図12 始祖三紡績と八大紡など大手紡績会社の変遷
図13 米価の変遷【幕末から太平洋戦争まで】
表1 鉱工業上位100社【1896年(明治29年)上期】
表2 幕末開港の歴史年表
表3 鉱工業上位100社【1914年(大正3年)下期】
系図1 本阿弥家を中心とする金座銀座・芸術家の閨閥
系図2 金山衆・金座銀座・鉱山師・両替商・財閥
系図3 松方正義閨閥
系図4 福沢諭吉閨閥
系図5 廃藩置県を建言した四人の藩知事勝海舟
系図6 全財閥の閨閥