083中岡哲郎著『日本近代技術の形成――<伝統>と<近代>のダイナミクス――』

書誌情報:朝日選書809,6+486+24頁,本体価格2,000円,2006年11月25日

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メキシコの大学院大学エル・コレヒオ・デ・メヒコでの講義経験をもとに,西欧型工業(=機械制大工業)と在来型工業(=手工業的在来工業)との異質な流れがダイナミックに絡まってつくりだされた近代日本の発展を描く。「輸出の太宗」製糸業や民営鉄道の果たした役割を前提に,本書で触れられるのは,紡績,鉄鋼,造船に代表される前者のそれと織物業で代表される後者のそれである。本書の特徴は,「上からの工業化」論(とくに官業払い下げの評価にかかわる山田盛太郎とトマス・スミスの所説)を排し,「低開発の開発」を免れえた移植産業と在来産業との相互補完にみることにある。
幕末から20世紀はじめまでの時期を対象に,日本における産業革命の問題も指摘している。ひとつは,技術における外国依存体質である。紡績にあってはマンチェスターが,造船にあってはグラスゴーが,鉄鋼にあってはフライベルグがというように,技術の故郷が国外にあったことである。ふたつめに,機械製造分野における互換性が確保できなかったこと。みっつめに,新産業領域における組織的研究開発能力に弱点があったこと。
アジア諸国の植民地化ではない道を切り開くことができた特異な日本の技術形成が,過度のナショナリズムと結合して破局にいたる過程も鮮明だ。多数の図と資料を含み,歴史(技術史)の複雑な相互関係を解き明かした良書といえる。