999小路行彦著『技手の時代』

書誌情報:日本評論社,xii+721頁,本体価格7,500円,2014年6月20日発行

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技師は技術者の呼称であり資格であり現在も使われている。それにたいして下級技術者の呼称であり資格であった技手は戦前に特有で現在では死語に近い言葉になっている。技手は工業学校や各種学校で養成された。本書のタイトルにはその技手が工場組織において大きな役割を果たした時代,技手を養成すべく実業教育が花開く時代を含意している。
著者は工業学校を中心とした実業教育の歴史的変遷と実態,造船・機械・鉄道・電気・化学・製紙などの工場組織を対象にした労働編成や経営組織における技手の実態を詳しく論じている。
教育制度が整う前にいち早く着手されたのが技手養成(攻玉社)と工手養成(工手学校)である。近代化を急ぐ日本にあって技師を養成する大学や技手または技師を養成する高等工業学校の実態はよく知られていても,技手を養成する甲種工業学校や職工・職工長を養成する乙種工業学校については詳しく調べられてはいないように思う。旧制中学校に対抗し比肩しえる学校として成長する工業学校の学校制度間競争に視点を据えていた。
個別工場組織の労働編成や経営組織において工手の位置づけは異なっている。工業学校卒業生の技手が企業においてどのように養成され教育されたのか。技術者・技能者教育の実態が詳しく描かれている。
学校教育と企業内教育,あるいは徒弟制的教育との接点に位置した技手の存在は現在の工業高校の存在理由や教育のあり方にも,現代の労働問題にも繋がっている。著者の長年にわたる資料収集が実を結んだ大著に快哉を叫びたい思いがした。