書誌情報:弦書房,284頁,本体価格2,200円,2012年6月30日発行
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著者みずから足を運んで調査した全国90(当然のことながら北海道,東北・北関東,九州が多い)におよぶ現存する石炭産業遺産をまとめたものである(東京青梅の「東京炭鉱」も収録している)。それぞれの遺産についての歴史的背景と遺産としての意味をみずから撮った多くの写真(一部をのぞいてカラー)とともに解説している。遺産は形として今に留めているものだから,過酷な労働環境・条件・労務制度(「友子」や「納屋」)や戦時中の強制労働などの実態はすぐには浮かんでこない。「遺構とともに事実を語り継ぐことに価値が見出せる」(7ページ)はずだ。
坑内掘り炭鉱は釧路コールマイン釧路炭鉱のみだが,商業用露天採掘は芦別工業新旭炭鉱や平野重機鉱業東芦別炭鉱,北菱産業埠頭美唄炭鉱などで石炭採掘がおこなわれ発電用に利用されているという。さらに日本は世界一の石炭輸入国(おもに製鉄と火力発電用)である。世界の石炭採掘は,中国,東南アジア,インド,オーストラリア,ニュージーランド,カナダ,アメリカ,メキシコ,ロシア,ヨーロッパ,南アフリカなど大陸すべてにまたがり,エネルギー源の2割前後を占める。石炭産業は現在進行形でもある。
巻末に,日本の石炭産業略史,炭鉱関連映画,石炭産業遺産の保存と活用,石炭産業遺産一覧,年表などがあり,著者の思いが込められている。
福岡にある弦書房は,砂糖本だけでなく(関連エントリー参照),本書以外にも北九州地域史研究会『北九州の近代化遺産』([isbn:9784902116717]),九州産業考古学会『福岡の近代化遺産』([isbn:9784902116960]),筑豊近代遺産研究会『筑豊の近代化遺産』([isbn: 9784863290020]),九州産業考古学会調査班『築後の近代化遺産』([isbn:9784863290679]),砂田光紀著『九州遺産――近現代遺産編101――』([isbn:9784902116359]),熊本産業遺産研究会『肥薩線の近代化遺産』([isbn:9784863290198])と九州の近代化遺産シリーズを刊行している。
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