書誌情報:弦書房,195頁,本体価格1,800円,2011年12月25日発行
- 作者:八百 啓介
- 発売日: 2011/12/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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茶やコーヒーについては社会史・世界史と銘打った定評ある本がある。砂糖については川北稔著『砂糖の世界史』(岩波書店,1996年,[isbn:9784005002764])が思い当たる。砂糖の需要増加と新大陸アメリカのプランテーションとのかかわりが歴史上最大の「砂糖」問題だったのかもしれない。
もともと砂糖の歴史は古代インドに始まるという。「地中海沿岸の中世のイスラム教社会から近代ルネサンスとともにキリスト教徒の手を経て大航海時代の新大陸へ,そして中国を経て江戸時代の日本や東南アジアに及んだ」(179ページ)。日本で砂糖が使われるようになるまでの甘味は,もち米に麦芽酵素(麦もやし)を加えて糖化させた飴(麦芽飴・湿飴[しるあめ]),あるいは密や薯(いも)の一種である甘葛煎(あまずら)だそうだ。日本の砂糖の歴史は8世紀にさかのぼることができ,平安・鎌倉時代には薬として,室町時代には饅頭・羊羹の原料として使われた。江戸時代になって中国から黒砂糖製法が伝わり,白砂糖は長らく長崎からの輸入品だった。
本書の砂糖の道は長崎街道である。飴文化圏(豊前から筑前),餅文化圏(筑後から佐賀平野),砂糖・南蛮菓子文化圏(佐賀から長崎)を辿り,砂糖の流通を菓子の視点から見た社会史である。長崎のカステラ,平戸のカスドース,佐賀の丸ぼうろ,福岡の鶏卵素麺,千鳥饅頭,ひよ子,松山のタルトもこのシュガーロードと関係する。しかも,タルト,鶏卵素麺,甘木の翠雲華は鎖国下の長崎警護によってポルトガル菓子が国内に伝わる南蛮菓子だった。
森永・明治・江崎のうち森永と江崎の創業者はともに佐賀県出身であり,戦前期に森永・明治とともに三大メーカーと言われた新高製菓(台湾)の森平太郎[北方謙三の曾祖父]――北方『望郷の道 上・下』(幻冬舎,2009年3月,上[isbn:9784344016439]・下[isbn:9784344016446])の主人公・藤正太のモデル――も佐賀県出身である。
砂糖と菓子が鶏卵や鶏肉を食べる文化の分化を促し,産業や軍の集積が新しい菓子文化をつくる。菓子の履歴書には思ってもみない展開がある。
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