889中岡哲郎著『近代技術の日本的展開――蘭癖大名から豊田喜一郎まで――』

書誌情報:朝日新聞出版,243+xi頁,本体価格1,300円,2013年2月25日発行

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『一冊の本』連載「技術を考える」(2007年7月号〜2009年8月号)に加筆修正したものである。日本における技術発展を特殊なものとしてでなく後発資本主義国に共通するものとして描いている。「在来技術が外来技術とうまく相互補完しあうとき,後発国の順調な経済発展が生み出されるのである」(183ページ)として,日本資本主義とその技術展開を特殊とする説を批判している。経済および技術の発展は一定の条件が必要であり,「技法の受け入れを切望する社会的条件の成熟」(44ページ)がなければならないからだ。
日本における産業革命から高度成長にいたる歴史に,絹・綿機械,マッチ製造,軍艦製造,製鉄,鉄道,工廠,発動機,自動車製造,レーダー開発など多くの技術移転とその受容を見る。第二次世界大戦にいたる過程にいくつかの軍事的要素の光と影を追いつつ,戦後に開花する自転車・原付自動車からオートバイ・オート三輪を経て小型自動車・トラックに発展する四輪自動車産業の展開に,「高度な技術を性急に求める軍の介入が,自然な発展の初期の芽を摘むことがまったくなくなったから」(243ページ)とする著者の技術論が凝縮されている。
山本義隆著『十六世紀文化革命』(関連エントリー参照)をして「私にとっては感動的な読書体験」(41ページ)と評していた。むべなるかな。