124マルクス主義と功利主義

松井暁さん(専修大学)から,未定稿「マルクス功利主義」と既発表の抜刷が届いた。「社会主義と規範理論」(『富大経済論集』第40巻第3号,1995年3月),「分析的マルクス主義の社会システム論(1)(2)(3・完)」(同上第41巻第2号,第42巻第1号,第43巻第1号,1995年11月,1996年7月,1997年7月),「マルクス自己所有権原理」(『立命館経済学』第55巻第2号,2006年7月),そして「マルクスと正義」(『専修経済学論集』第42巻第2号,2007年12月)である。規範理論や所有論をベースにマルクスを批判的に読み取ろうとする気鋭の作品だ。
松井さんは,経済理論学会編『季刊 経済理論』第41巻第4号(桜井書店,2005年1月)の特集「経済学の規範理論」編集の際,かねてからマルクス功利主義に関心があった評者に声をかけてくれた。その時に書いたのが「功利主義マルクス」だった。それまでマルクスベンサム批判がわからず,同じテーマをいくつかにわけて書いてきた。「マルクスベンサム論」(『経済学(愛媛大学法文学部論集経済学科編)』第22号,1989年11月),「マルクスベンサム」(同上第23号,1990年11月),「マルクスベンサム論」(同上第24号,1991年11月),そして「マルクスベンサム」(中村哲編著『『経済学批判要項』における歴史と理論』青木書店,2001年1月)だ(ほかに領有法則展開論をまとめたもの,新MEGAのベンサム評注を解読したものもある)。評者の結論は,マルクスベンサム功利主義にたいする批判がはたして功利主義への体系的批判なのかどうかは確定困難であるというなんとも中途半端な結論だった。
松井さんの未定稿では,評者のベンサム功利主義へ検討をふまえて,マルクスは,功利主義を拒否するのではなく,それを追求し,その役割を終えさせることによって乗り越えようとしたと展開している。未定稿ゆえ詳しく紹介はできないが,功利主義を規範とする社会から功利主義を否定する社会の追求はいかなる論理によるべきかを論じた試みである。今秋にはペーパーになるようだ。