215河畠修著『福祉史を歩く――東京・明治――』

書誌情報:日本エディタースクール出版部,vi+209頁,本体価格1,300円,2006年5月30日発行

福祉史を歩く 東京・明治

福祉史を歩く 東京・明治

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福祉分野の国家資格科目には歴史関係科目が含まれていない。同時に,福祉の歴史そのものに関する書物は少ない。本書は,著者が明治時代の東京を舞台に福祉活動がおこなわれた場所を訪ねて歩いた東京福祉散歩である。
これらは,幼児教育・貧児教育(四谷・二葉幼稚園,上野:万年尋常小学校,大塚:養育院,本郷・西麻布・広尾:福田会育児院),老人ホーム(麻布・六本木:聖ヒルダ養老院,滝野川:東京養老院),知識人たちの活動(巣鴨留岡幸助の家庭学校,神田:片山潜の琴具須玲館),スラム街(四谷:鮫河橋,上野:万年町,芝:新網など)である。みられるように,横山源之助『日本の下層社会』で「東京の三大貧窟」と言われた「四谷鮫ヶ橋」,「下谷万年町」,「芝新網」も含まれている。
明治期において,個人または有志グループによる貧民・高齢者・障害者への救済活動はあったが,一般市民を対象にした福祉サービスはなかった。明治後期にいたりようやく国家による慈善団体の組織化が進行し,窮民救済を基本的に地方債の負担にする制度が作られた。天皇制国家による慈恵救済と感化救済という国家統制も色濃くなる。
本書で扱われた事業や組織のうち今なお残っているものもある。福祉の現在・未来を考えるからこそ,過去の一端を見ておきたい。