270水野直樹著『創氏改名――日本の朝鮮支配の中で――』

書誌情報:岩波新書(1118),v+246頁,本体価格780円,2008年3月19日発行

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

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2003年5月,当時自民党政調会長だった某がある講演で「創氏改名は,朝鮮の人たちが『名字をくれ』と言ったのがそもそもの始まりだ」と発言した。これに先だって1996年6月の日韓首脳会談において橋本龍太郎首相が創氏改名は「両国の歴史の不幸な部分」のひとつとして表明していたにもかかわらずだ。某とは現日本国首相麻生太郎である。
著者は,創氏改名の強制性を否定する意見――(1)朝鮮名を維持した者がいたので,必ずしも強制ではなかった,(2)創氏は義務だったが,改名は任意だったので,全体として強制ではなかった,(3)満州や日本「内地」に居住していた朝鮮人をはじめ多くが日本名を望んでいた,(4)戸籍に姓の記載は残ったので朝鮮人の名前を奪ったとはいえない――が一面性を免れえないことを本書で明らかにしている。日本の植民地支配にたいして,朝鮮総督府,日本「内地」の政治家,朝鮮人がさまざまな認識をもっていたことや創氏改名の法的仕組みだけでなく運用の実態などを,新しく見つかった資料によって解明している。
創始改名が同化を目的に「自発性の強要」ともないつつ,朝鮮人を差異化し,はては朝鮮独立の機運を促したとすれば,見事な植民地支配といわざるをえない。