276田口晃著『ウィーン――都市の近代――』

書誌情報:岩波新書(1152),vi+247+14頁,本体価格780円,2008年10月21日発行

ウィーン―都市の近代 (岩波新書)

ウィーン―都市の近代 (岩波新書)

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ウィーンは19世紀後半に自治権を回復した。それ以降,自由主義市政,キリスト教社会党市政,社会民主党市政を経て,ナチスによる併合(1934年)までのおおよそ80年間のウィーン市政を描いたのが本書だ。「政治の実験場」とも言われる現実の近代ウィーン市政,ウィーン政治の近代が,市長,政党指導者,文化人,学者など多彩な人間模様と政策の概観からあぶりだされている。
『第三の男』に出てくる巨大下水道,中央墓地,市営集合住宅のカール・マルクス・ホーフ,リング大通り。すべて「政治の実験場」ウィーンの産物である。ヒトラーフロイトも,ハイエクもポランニーもウィーンに縁がある。
選挙権の拡大と市政府の構成・政策の変化がウィーンをして「政治の実験場」にした。文化の都,夢の都ウィーンのもうひとつの顔である政治の都が見えてくる。ナチスによる「失われた10年」後の叙述展開に期待したいほど,新書としてはとても濃密な本だ。