書誌情報:岩波新書(1454),viii+223+8頁,本体価格800円,2013年11月20日発行
- 作者:権左 武志
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 新書
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ヘーゲルは「ヨーロッパ近代を規範的に根拠づけた最初の近代の哲学者にして,カントに始まる観念論を最後に完成させた哲学者」(212ページ)であるとして,ヘーゲル自身の時代体験(歴史的視点),ギリシャ文化やキリスト教文化との関係(思想史的視点),ヘーゲル以降の影響作用(影響史の視点)から描きあげている。
『精神現象学』,『法哲学綱要』,『歴史哲学講義』を対象にヘーゲルの思想的営為をほぼ時代毎に整理し,プロイセンの国家哲学者からリベラルなヘーゲル像の転換を確認する書といってもいいだろう。「フランス革命と若きヘーゲル」,「帝国の崩壊と『精神現象学』」,「新秩序ドイツと『法鉄学綱要』」,「プロイセン国家と『歴史哲学講義』」(各章のタイトル)にみられるように「歴史的文脈から思想の成り立ちを理解する」(vページ)姿勢は徹底している。
ドイツ歴史主義,マルクス主義,ニーチェ派の実存哲学をヘーゲルから派生した思想とし,それぞれナショナリズム,生産力の発展史観,社会ダーウィニズムに帰結したとする。
ヘーゲルを観念論の完成者として読めという著者の主張は,マルクスの「誤ったヘーゲル批判」(195ページ・201ページ)を強く意識したものだ。ヘーゲル左派から出発したマルクスがヘーゲル理論をもとに資本主義批判を成し遂げたまでの過程を肯定的に描く。ところが,ロシア革命以降の共産主義国家の失敗を「マルクス自身,異なる意見を持つ他者の権利を理解できず,誤ったヘーゲル批判から出発した点」(195ページ)にもとめている。唐突であるうえ,マルクスによるヘーゲル『論理学』の批判的検討が一切含まれていないとあっては説得的ではない。
久々に繙いたヘーゲル論は「ミネルヴァの梟」に溢れていた。
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