792ペルーズ・ド・モンクロ著(三宅理一監訳)『芸術の都 パリ大図鑑――建築・美術・デザイン・歴史――』

書誌情報:西村書店,711頁,本体価格6,800円,2012年7月2日発行

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パリの都市建築美術史を古代遺跡からミッテランのグランド・デザインまで包括的に叙述した大著である。ひとりの著者によって芸術の諸領域にわたって名実ともに縦横に論じられる。芸術創造に関わった多くの職人たちへの視点を一貫させ人と物の歴史物語とオールカラーの図版を例証としてパリという都市の歴史を紡ぐのは並大抵の才能ではない。
ポンパドゥールをキーワードに流し読みしてみる。
ルイ15世様式はロカイユ様式とも呼ばれるが,この語は色つきの小石や貝殻を用いてグロッタや噴水に装飾するロカイユ装飾家の技法に起源をもつ。ロココはこのロカイユから作られた語であり,のちに「半ばおどけたようで半ばまじめな」「ギリシャ趣味」という反動が現れる。「この動向はポンパドゥール侯爵夫人の支持を得ることになる。彼女はもはや単なる王の寵姫ではなく,王の趣味までをも支配したのである」(355ページ)。
有名なフランソワ・ブーシュ「ポンパドゥール夫人の肖像」を配し(387ページ),「家臣であるポンパドゥール夫人に,支配者への一歩を再び与えるようなこの衣服の豪華さ」(376ページ)と前景に描かれている書き物机に「おそらくベルナール・ヴァン・リザンブール2世の手になるもので,かつて「ポンパドゥール様式」と呼ばれていたロココ様式の見事な例」(同上)を見る。
また,彼女はパリの西端に邸館(現在のエリゼ宮)を所有し(389ページ),ヴェルサイユにあるプチ・トリアノンはガブリエルがポンパドゥール夫人のためと考えていた)ルイ15世のために建設したもので「小型化した建築の最も代表的な邸宅」(391ページ)となる。
展覧会で実見したものなどかの有名な絵画ももちろん登場し,壮大な芸術パノラマが一望できる。「意外に思われるかも知れないが,全篇をパリの芸術に捧げた書物は今まで編まれたことがなかった。理由ははっきりしている。芸術とパリという組合せは膨大な総量を呈するからである」(まえがき)。前人未踏の領域への果敢な挑戦書でもある。