426柴田徳太郎著『資本主義の暴走をいかに抑えるか』

書誌情報:ちくま新書(780),270頁,本体価格780円,2009年4月10日発行

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サブプライムローン問題から金融危機の発生を経験して,貸付債権の証券化金融工学にもとづいたアメリカ型「証券化」資本主義(著者の言葉)の欠陥が指摘されるようになった。その際,市場に任せる政策の限界となんらかの規制の必要性が対になって主張されるようになった。
これにたいし著者は,市場とともに考えられなければならないのは国家や規制ではなく,制度や組織であるとする。もともと市場経済を支えているのは私有財産制と貨幣制度という制度であり,市場経済の変化につれて進化する。現実の市場における費用逓減や投資の不確実性への対応として制度の変容がある。この立場をはっきりさせたうえで,労働市場における労使の力の不均衡を是正するための諸制度の歴史的検討とフェア・トレードに見られる交渉力の差異をみることで,制度と組織の進化による市場との両立を説く。
本書の紙数の多くは,20世紀初頭の大恐慌の原因にかんする制度的要因の分析とその後の資本主義の黄金時代を支えた制度分析に割かれている。前者については,経営者優位の労資関係,アメリカ金融制度の不安定性,再建国際金本位制脆弱性,自由放任主義を,後者については,自由放任主義の終焉,労使妥協体制,規制と救済の金融制度,国際管理通貨制を,それぞれ詳細に論じ,市場経済の不安定性と不公正を是正する諸制度が市場社会を支え,市場経済の繁栄が諸制度への社会的支持を支えるという「共生関係」(140ページ)を確定している。20世紀後半にはこの「共生関係」の構図は,IMF体制とドル過剰問題,金融規制とインフレ進行,労使妥協体制の限界,政府の経済安定化機能とスタグフレーションに直面することで,自由主義市場原理主義に向かったと捉える。
この理解をさらに現状分析に広げ,アメリカ型「証券化」資本主義の破綻,資源・食料品価格高騰と新興諸国からの資金環流,格差の拡大,規制緩和財政赤字拡大,から判断して,さらに市場に任せる改革の方途を批判する。こうして著者は市場経済の国家による管理を却け,「制度改革により制度の進化を実現」(247ページ)する道を提唱する。
新書という限られた紙数ながら凝縮されたさまざまな指標(数字)は圧倒的である。市場と制度の調和をはかるための制度改革提唱は,ある種の規制を含んでいる。たとえば著者が「詐欺的」と呼ぶ(アメリカの)住宅貸付がそうだし,金融制度改革,格付会社やその他の金融機関の利益相反問題にかんする規制もそうである。はじめに規制ありきではない。本書は,財政・金融問題を論じた書に多いたんなる事実を羅列しただけの現状追認とはちがう。制度や組織のもつ可能性を歴史と現状から論じた資本主義論からは多くのことを学ぶことができる。