567斎藤貴男著『経済学は人間を幸せにできるのか』

書誌情報:平凡社,303頁,本体価格1,600円,2010年4月16日発行

経済学は人間を幸せにできるのか

経済学は人間を幸せにできるのか

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「経済学者に会いに行く」(『月刊百科』2008年11月号〜2009年10月号,平凡社)の連載を再構成し書籍にしたもので,インタビュー(中谷巌佐和隆光八代尚宏,井村喜代子,伊藤隆敏金子勝)と「結論」・「提言」からなっている。
中谷からは新自由主義批判と日本的伝統への回帰を,佐和からは排除される者のない社会(=平等)とポジティブな福祉社会の創造を,八代からは市場競争が機能する規制強化と構造改革によるさらなる規制緩和を,井村からは戦後日本経済史の展開との関連を,伊藤からは金融資本市場中心のグローバリゼーション対応を,金子からはセーフティネット地域再生をそれぞれ引き出している。
「歴史はもちろん,社会学にも政治学にも哲学にも無頓着,無関心」(佐和,54ページ)・「近代経済学のペーパーだけの,歴史認識の伴わない抽象論議」(井村,146ページ)とする(近代)経済学批判もこのメンバーゆえの本書の特徴だ。
著者は小泉・竹中路線(=新自由主義構造改革)への決別を主張し,思想や歴史認識(「どのような社会を築きたいのかという構想」(285ページ))をもった経済学に期待を寄せ,「スモール・イズ・ビューティフル」に活路を見いだしている。
インタビュアーとしての著者は,新自由主義構造改革金融危機の処方箋という大きな問題からインタビューを始め,各論者の得意分野の論点を浮かび上がらせようとしている。「テレビやシンポジウム,ネット空間での反射神経勝負」(12ページ)ではない活字世界で論者たちの発言を聞き,じっくり吟味したい。