書誌情報:山吹書店発行・JRC発売,287頁,本体価格2,400円,2007年8月1日
- 作者:二宮 厚美
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 単行本
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格差社会に関する議論は大賑わいだ。格差を論じることはいまや一種の流行・風俗といってもいい。本書は,それらの流行本や格差問題を消費する類書とは一線を画し,格差社会を克服する立場を明確にして,新自由主義および新自由主義に与する議論を徹底批判する書き下ろしの書物だ。
格差社会促進派および促進・反対の中間派の批判的レビューという大枠のもと,(1)格差社会の階級的および階層的格差の二重構造としてとらえ(格差社会の震源を階級的格差にもとめ,階層的格差を階級的格差のあらわれとする),(2)格差社会の問題を格差と貧困,不平等と不自由というふたつの問題として理解し,(3)格差社会の背景・原因を新自由主義的構造改革にすえる。著者は,新自由主義を,「土台としての経済構造に市場原理を徹底すること,その上部構造としての国家を不平等促進の反福祉国家に切りかえること」(117ページ)あるいは「『新自由主義』の『新』とは反福祉国家のこと,『自由主義』とは市場原理の自由放任」(118ページ)とし,90年代半ば以降にグローバル化に対応した多国籍企業化に格差社会の背景を読み取る。新自由主義は格差の拡大と格差是正策の弱化を内容とするから,新自由主義論や構造改革免罪論(竹中平蔵,堺屋太一,奥田碩,大竹文雄,日垣隆,八代尚宏,小嶌典明,仲正昌樹,白波瀬佐和子,宮崎哲弥,田原総一郎,田中直毅など)は徹底して批判される。
「希望格差社会」論(山田昌弘),「不平等社会日本」論(佐藤俊樹),「いきすぎた格差社会論」と「格差固定化是正論」(橘木俊詔),ポスト産業資本主義または脱工業化社会論(榊原英資,岩井克人,神野直彦,宮本太郎),「新中間階級による労働者階級搾取論」(橋本健二)も,評価をごく一部にかぎり,格差社会克服の観点から批判的検討の対象とされている。
著者による論点摘出と批判の提示は,あまたの格差論を整理するうえで参照にあたいする。
本書に先立つ『ジェンダー平等の経済学――男女の発達を担う新福祉国家へ――』(新日本出版社,2006年10月,[asin:4406033017])については本ブログで取り上げたことがある(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070322/1174532284)。