431佐藤一著『「下山事件」謀略論の歴史――「原光景」的イメージから「動物化」した謀略論へ――』

書誌情報:彩流社,361頁,本体価格2,000円,2009年9月30日発行

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2009年6月に亡くなった著者は,冤罪・松川事件の容疑者として逮捕されのちに無罪を勝ち取ったことで,また,本書の前編になる『下山事件全研究』(時事通信社,1976年;新版インパクト出版会,2009年,[isbn:9784755401992])での下山事件「謀略論」批判でも知られている。
本書の主張は下山事件「謀略論」を排し,下山総裁自殺説だ。多くの下山事件関係書は「謀略論」であり,孤塁を守るかのように,「謀略論」への甲高い批判がひとつの特徴となっている。批判の矛先は前編刊行以降の「謀略論」――斎藤茂男『夢追い人よ――斎藤茂男取材ノート――』築地書館,1989年,[isbn:9784806756699];諸永祐治『葬られた夏――追跡・下山事件――』朝日新聞社,2002年(文庫,2006年,[isbn:9784022615114]);森達也下山事件』新潮社,2004年(文庫,2006年,[isbn:9784101300719]);柴田哲孝下山事件 最後の証言』祥伝社,2005年(文庫,2007年,[isbn:9784396333669]);藤井忠俊『「黒い霧」は晴れたか――松本清張の歴史眼――』窓社,2006年――である。なかでも身内(祖父)が「犯行」に加担したとして評判を呼んだ柴田本(2006年日本推理作家協会賞受賞)への批判に多くを費やしている。
評者が読んだ下山事件関係書は,ここでいう「謀略論」が大部分だ。「「動物化」した謀略論」かどうかは別として,「謀略論」によってでっち上げられた事件の容疑者であってみれば,下山総裁謀略的他殺説は克服されるべき神話なのだ。