432山脇直司著『社会思想史を学ぶ』

書誌情報:ちくま新書(819),220頁,本体価格720円,2009年12月10日発行

社会思想史を学ぶ (ちくま新書)

社会思想史を学ぶ (ちくま新書)

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社会思想は,政治,経済,文化,宗教,歴史,自然など多種多様な局面からなる社会を対象とした人間の精神的営み総体を指す。その思想史を描くということは過去の思想の梗概を示すとともに生きる現代へのなんらかの折り返しも必要とする。著者は「各自が,自分の生きる現代社会を理解し,未来社会を構想するために,さまざまな過去の思想の蓄積から糧を得ること」(10ページ)と表現している。本書はこうして「社会思想史とは,歴史的に形成されてきた現代社会を思想というフィルターを通してとらえ,未来社会を構想するための,過去の思想の蓄積との対話」(11ページ)とし,「近代から現代にいたる社会思想史の新しいヴィジョンの追究」(同上)を企図したものである。
本書のポイントは近代啓蒙主義思想がもっていた正と負の両遺産の評価にある。1980年代のいわゆるポストモダン思想の非普遍性の指摘からはじまり,「文明の進歩」思想として展開された近代啓蒙主義の限界を詳述するのは超えられるべき負の遺産である。他方で,立憲国家,市民社会,超国家組織のもつ意義を近代啓蒙主義の延長に位置づけなおし再評価しようとするのは正の遺産ということができる。著者が展望する社会思想の未来は欧米中心かつ近代主義に立つ社会思想ではなく,非欧米地域の社会思想を包含しうる「比較社会思想」かつ多様性を尊重する「解釈学(ヘルメノイティーク)」ということになる。
ニューアカへの「単なる連想ゲームのような軽妙(=短小軽薄)な思いつき」(35ページ)とする皮肉,近代啓蒙主義の社会思想には「文明の進歩」観があったとする分析視角,反啓蒙・復古ではない進歩史観の批判者としてホルクハイマー,アドルノ,ヨーナスへの高い評価,日本における市民社会論者の特徴(福田徳三を「わが国の市民社会論史の(忘れられた)知的遺産」(142ページ)としての再評価をともなっている)と公共的価値への展開に接続させる意義の確認は,未来社会の構想と思想の蓄積からの糧という本書の課題に応えていよう。引用を極力おさえ,咀嚼した内容の提示――たとえばマルクスにたいして「各人の自由の発展が,万人の自由の条件であるような結合社会(アソシエーション)」と再三特徴づけるステレオタイプもあるが――と展開は,やや付録的な扱いながら日本と東アジアでの思想についても触れており,社会思想史入門の期待を裏切っていない。
前著『公共哲学とは何か』(ちくま新書,2004年5月,isbn:9784480061690)よりはるかに歯切れがいい。