527安田浩一著『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』

書誌情報:光文社新書(465),314頁,本体価格860円,2010年6月20日発行

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帯の惹句がすべてを物語っている。基本給:月5〜6万円,残業時給:300円,現金支給:月1万5000円。本書の第1部の「外国人研修・技能実習制度」による中国人「労働者」の実態だ。それだけではない。給与未払い,長時間労働,パスポートや預金通帳の取り上げ,セクハラや暴力など法治国家日本では許されない人権問題が蔓延っている。実際は「労働者」扱いなのに,人材育成と技術移転を支援する国際交流事業の一環であり,外国人に単純労働に従事することを禁じているわが日本の「苦肉の策」である。メーカーのみならず人手不足にあえぐ農業分野においても外国人「研修生・実習生」に頼らざるをえない現実がある。
日本有数の研修生受入機関に日中技能者交流センターがある。元会長で顧問を務めるのがあの槙枝元文である。また,裁判沙汰になった日中経済産業協同組合の代表理事は故小渕恵三の甥で,小渕優子のいとこにあたる人物である。ここには,労組関係者や政界にコネをもつ有力者が最低賃金法違反,長時間労働,強制帰国などを助長している受入側日本と手数料・管理費・保証金名目で多額の金をむしりとっている中国政府機関との利害一致がある。「国家ぐるみで推進される21世紀の人身売買」(135ページ)は「研修生・実習生」の本質をついている。
いまひとつの焦点をブラジル日系人の「デカセギ」に充てている。デカセギとその家族,永住権取得を含め30万人以上が日本にいるブラジル人である。1990年の入管法の改正によって日系三世までの日系人およびその配偶者の定住資格が認められ,外国人労働者としては例外的に自由に働くことができるようになった。不法就労者を一掃するとともに,日系人を受け入れることによって単純労働就労を合法化する魔法の小槌というわけである。労働力不足に悩まされていた自動車産業や精密機械産業(北関東と東海)が主な吸収源となり,不況にいたるや真っ先に首を切られてのは周知のことだ。日本人はあらためて「「サッカーとサンバ」以外のブラジル」(189ページ)を知ることになった。
たしかに「憤りや絶望ばかり」(「はじめに」6ページ)のルポである。しかし,われわれは,「字句通りの研修,実習など,ほとんど存在しない」(「おわりに」303ページ)ことや「派遣切りは外国人から始まった」(同上311ページ)ことを知っている。外国人「労働者」が存在する。ここから始めるしかない。