書誌情報:千倉書房,180頁,本体価格2,200円,2011年12月10日発行
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「今治タオル 産地復活」(朝日,2012年6月25日付)は国のブランド化事業の補助を受けて存亡の危機から復活したことを伝えていた。アートディレクター・佐藤可士和の協力を得てブランドマークを統一したことが大きかったことに触れている。讃岐うどん,利尻昆布,白い恋人,長崎ちゃんぽん,長崎カステラなどは地域ブランド化した特産品である。隣県の「うどん県」は地域ブランドを利用したネーミングとして全国に知れ渡った。千歳空港で見かけた黒い恋人は白い恋人ブランドを借用したものだ。
国のかかわりは知的財産戦略本部での地域ブランドの議論(2004年),商標法改正(2006年)――事業協同組合や農業協同組合が地域名を付けて製品の商標を登録できる――が追い風になったといわれる。だが省庁管轄がバラバラで,農水省が生鮮食品,経産省が加工食品,飲食店,地場産業などの特産品,観光庁が観光地,総務省が地方行政鯛をそれぞれ対象にしている。著者によれば,地域ブランド化を推進するには地域での「機能連携」が必要であり,対象品毎では混沌しか生まれないという。
本書は地方の特産品とくに食品関連に焦点をあて,市場発展の成熟の視点から常用市場(試買市場の対)を経てブランド化を実現する道を探っている。「多くの特産品は,たとえマーケーターによって地域ブランドとよばれていても,それはまだ市場での認知を受けていないブランド化を夢みる状態にある。高いブランド力を示している特産品の数は相対的に少ない。このことは多くの特産品がブランド化への努力を続けねばならないことを意味している」(153-154ページ)。
著者の見立てによれば,西条の七草(未発展,未ブランド),伊予柑(発展,ブランド),愛媛みかん(発展,ブランド),宇和島じゃこ天(発展途上)である。多くの地域ブランドの商品特性として地域の歴史との関連性を強調する。著者によればそれは「産地ナルシシズム(自己愛)の一種」(110ページ)である。顧客重視の地域ブランド化戦略が著者の主張である。四国,北陸,山陰,宮崎,佐賀などは県外観光客数が圧倒的に少ないので,「観光販路による試買市場の開拓」ではなく一般販路の開拓を目指す必要がある。「産地ナルシシズム」だけでは空回りすることを教えられた地域ブランドマーケティング本となった。
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