書誌情報:ナカニシア出版,vi+358頁,本体価格3,500円,2012年4月27日発行
- 作者:紀国 正典
- メディア: 単行本
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そもそも金融は公共財である。金融は簡単で分かりやすく利用でき,持続的幸福に役立つように制御されるべきである。金融の公共性に正面から向き合い,金融ユニバーサルデザインの提起は寡聞にして他の研究を知らない。金融危機や銀行危機の際には公的支援の是非をめぐる議論がわきあがるが,金融の公共性が担保されていない前提での後出し公共性論は主客転倒もはなはだしいことになる。
著者は公共性研究を概括し,共同利用・共同利益・共同制御の「公共性三元論」を定式化する。「公共性とは人間の集合的行為関係・行為様式を表したものであると広くとらえることによって,金融や国際金融もふくめさまざまな利用対象物について,さらに国内的・国際的な範囲の利用対象物についても統一して理解できる理論的枠組み」(91-92ページ)である。金融が公共性をもつのは,包括的機能性のもっとも高度な公共財,利用者の一般的包括性が高度な公共財,ソフトウェア公共財,利用者間の結びつきの高度な公共財,弱い公共財(信用と信頼によって築かれた壊れやすい),危ない公共財,怖い公共財,富ではない公共財,複合的な公共財,であるとてつぎのようにまとめる。「多面的多様性を有する不特定多数の人が,金融と国際金融を利用あるいは利用接近でき,その利用から持続的な利益と満足を得られ,同時に社会や国際社会の持続的幸福を実現できるように,金融と国際金融における利用対象物と利用方法を制御すること」(203ページ)と。
方法論的枠組みだけでなく貸手責任論を参照しつつ「社会的責任金融・国際的責任金融」を企業(金融)の社会的責任論として論じている。巨大複合金融機関の分割・解体を展望し,著者草案の金融のユニバーサルデザイン(公平性,適合性,簡単性,情報容易理解,失敗許容範囲,身体的負担軽減,利用便宜性)をまとめている。
金融の公共性研究の記念碑的労作といえる著作といえるのではないだろうか。
インターネット上(「ホームページ」と表現している)に「金融の公共性研究」を立ち上げることを宣言している(354ページ)。評者も期待している。
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