942渡邉格著『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』

書誌情報:講談社,229頁,本体価格1,600円,2013年9月24日発行

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

  • 作者:渡邉 格
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 単行本

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岡山県真庭市勝山の「パン屋タルマーリー」(夫婦の名前「イタル」「マリ」から)は,天然麹菌による酒種パン,自然栽培の米を使った「和食パン」が評判である。無借「菌」で「菌」本位制を採用している。タルマーリーのある勝山には「菌」遊系の仲間がいる。
水曜日は仕込みの日で,営業日は週4日(木,金,土,日)である。数人いる従業員は週休2日(月,火),年に1カ月の長期休暇がある。週4日の営業は天然麹を相手の仕込みなどに手間がかかるからであり,マルクスに学んで労働時間を短くすることで自由時間を確保したいという思いがあるからである。
回り道を経て大学に進学し,31歳でパン職人を志す。36歳の時に千葉県いすみ市で夫婦の店を持ったが,2011.3.11を機に,「和食パン」づくりに最適な場所として真庭市勝山で再オープンした。
腐らない「カネ」を中心とした経済システムにたいし,発酵(まさに腐る)から地産地消,自営,後継者育成という腐るシステムを実践中のパン屋さん奮闘記は読んでいて清々しい。
「厳選した食材を使い,手間暇をかけて,しっかりとパンをつくる。そしてその対価として真っ当な価格をつける。パン職人の技術を活かしたパンをつくり続けられるように,しっかり休む」(64ページ)。「暮らしのなかに仕事があり,仕事のなかに暮らしがある」(217ページ)という「ワーク・ライフ・ごちゃ混ぜ」もいい。徒弟制度の試行錯誤もおもしろい。
数少ない成功物語ではない。中国山地の中腹の「腐る経済」はじわじわと蔓延りはじめている。