983マシュー・アムスター=バートン著(関根光宏訳)『米国人一家,おいしい東京を食べ尽くす』

書誌情報:エクスナレッジ,349頁,本体価格1,700円,2014年5月26日発行

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原題は,Pretty Good Number One: An American Family Eats Tokyo, 2013 だから,邦文タイトルは――副題にはあるが――,ベストセラー・イギリス本『英国一家……』(関連エントリー参照)を意識している。こちらは東京とくに中野を中心としたB級グルメを通して体験した日本文化論である。
お茶,ラーメン,豆腐,焼き鳥,天ぷら,うどん,そば,鮨,鍋,餃子,小籠包,お好み焼き,居酒屋,たこ焼き,うなぎなど日本人なじみの食の食べ歩きである。2012年7月の一ヶ月間家族で滞在して東京を食べた記録は,本人よりも8歳の娘さんアイリスが主人公でもある。8歳にして日本の庶民食に親しみ,彼女の視線から語った東京も本書の魅力だ。
原著タイトルの Prettey……は,中野の「ちょっといい一番街」を英訳したもの。一ヶ月という短期間ながら中野に住んで東京を満喫した直感を綴りながら食そのものよりも周辺の話題がおもしろい。とろろを精液に,傘袋をコンドームに,自分の「もの」を馬刀貝(マテガイ)に,うなぎを「もの」に,きゅうりを「もの」に喩える感覚はアメリカ人を感じさせる。レジャーシートの上でセックスするのが著者の死ぬまでしたいことらしいのもいかにもだ。アイリスは読んだのだろうか。
フードライターは意外にも食そのものには迫っていないが,日本の庶民食への興味は人一倍ある。本書にも一部掲載されている写真は,著者のブログにある(→http://www.rootsandgrubs.com/pretty-good-number-one-photos/)。アイリスが愛らしい。次作はラーメン。まさかまたザーメンは出てこないだろうね。