984ジョージ・ケラー著(堀江未来監訳)『無名大学を優良大学にする力――ある大学の変革物語――』

書誌情報:学文社,v+128頁,本体価格1,600円,2013年11月30日発行

無名大学を優良大学にする力―ある大学の変革物語―

無名大学を優良大学にする力―ある大学の変革物語―

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小さなリベラルアーツ・カレッジ(ノースカロライナ州)がここ10数年で全米でも注目される大学になった成功物語である。イーロン大学(Elon University)という。質の高い学生生活を提供することを目標に,大学パンフレットの見直し,事務組織の改編,新規専攻の立ち上げ,キャンパスラジオ局の設置,オーナーズ制度の導入,非常勤教員の採用などのほか樫を中心に大がかりな環境整備も実現してきた(ちなみにイーロンの名前はヘブライ語の樫に由来する)。アメリカンフットボールとサッカー兼用スタジアム(ローズ・スタジアム),野球場,ソフトボール場,陸上競技場,体育館とトレーニング場,図書館も新設した。
「ありふれた・地方の・貧しい」大学から「個性的で・洗練され・財源の安定した」大学への躍進は奇をてらった手段を講じてはいない。質の向上を目指す,計画性,教職員の意識改革と一体性の涵養,学生参加型学習の実践,財政基盤の確立,マーケティング技術と著者はまとめていた。
イーロン・カレッジ(2001年からイーロン大学)に焦点をあてて将来計画や変革のプロセスを追った本書は,原著が10年前の出版ながら一流の研究大学ではないがゆえに,読みどころ満載だった。一般教育と専門教育とを両立させる「ハイブリッド」と呼ぶ新しいタイプの大学づくりは貴重である。学生中心とは日本でもよく聞かれる言葉である。カリキュラム,学習環境,教職員の体制,学生の大学との関わり方,課外活動など多くのベクトルが一定の方向を向かわなければ機能しない。