1634常石敬一著『731部隊全史——石井機関と軍学官産共同体——』

書誌情報:高文研,415頁,本体価格3,500円,2022年2月25日発行

森村誠一の『悪魔の飽食』(角川文庫,1983年,[isbn:9784041365651])や著者の『消えた細菌戦部隊』(海鳴社,1981年;ちくま文庫,1993年,[isbn:9784480027498]),あるいはテレビドキュメンタリーによって「731部隊」はあまねく知られるようになった。著者による「全史」は,「石井機関の構造は防研(陸軍軍医学校防疫研究室:引用者注)を頂点とした731部隊などの防疫給水部という軍事組織と,防研を窓口として日本医学界の人材や情報を活用できるネットワークになっていたこと」(28ページ)を指摘する。「軍学官産共同体」は731部隊の特異性を示すだけではない。
共著論文を個人研究にすり替え,学位論文の公表差止,偽装された論文タイトル,表紙の作り変え(著者は「逸脱の学位論文」と呼ぶ)がおこなわれたのは,ほかでもない。「731部隊」との関連を消すためである。
「乾燥人血漿(輸血代用),濾水機,ペニシリン(碧素),BCG(乾燥),ペストワクチン,発疹チフスワクチン,コレラワクチン,破傷風血清(以上,著者が当時ミドリ十字会長だった内藤良一とのインタビュー時の内藤メモ,340ページ)」は,かつての研究成果であった。とくに輸血とBCGは,復活した「消えた細菌戦部隊」の復活だった。
人体実験の実施と細菌戦の試行を追確認するだけでなく,「731部隊」の時間軸の検討は,現代にも繋がっている。