959藤原書店編集部編『内田義彦の世界――生命・芸術そして学問――』

書誌情報:藤原書店,332頁,本体価格3,200円,2014年3月30日発行

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2013年は内田義彦生誕100年だった。亡くなってちょうど四半世紀になる。
内田の思想家としての営みを座談会,40人余の内田論,内田の文章で紡いだ「内田義彦の生誕」などで再構成していた。編集や本書の構成に力を尽くしたと思われる山田鋭夫が衝いているように,内田の「全部を通してたった一つのことしか言っておられない」その一つとは,専門的知識や社会科学の成果が市民一般に届く作品になっているかどうかだった。
社会科学の枠を超えて多くの人が内田の作品に共鳴したし,内田自身さまざまな専門家の体験や技から普遍性を感得しようとしていた。
山崎怜はこう書く。「内田の思想史や学説史,学問論や社会科学やことば論,人間論や教育思想など,すべての言説で,分かりにくい文脈とか時間とか空間とかにおける重層的で段階的な思考,反転のくり返しで不分明な箇所に逢着したとき,それを方法の世界に導いてドイツ・オーストリアの音楽用語で読み解くと,かなり深刻な疑問も氷解することがある」(67ページ)と。方法の思想家=内田を理解する鍵の音楽書法にはたしかにいくつか思い当たる。内田の説く作品論の創造過程の一端を知って,内田が語った断片がすこしばかり繋がった気がする。