024大塚信一著『理想の出版を求めて――一編集者の回想1963-2003――』

書誌情報:トランスビュー,i+381+xxi頁,本体価格2,800円,2006年11月5日

理想の出版を求めて 一編集者の回想1963-2003

理想の出版を求めて 一編集者の回想1963-2003

  • -

岩波書店で40年間にわたって編集(97年から03年まで社長)に携わった著者の回想記である。著者が関係してきた40年間の軌跡を詳細な文献情報とともにまとめている。「時代を担う若い世代の編集者たち」(あとがき)だけでなく,広く出版に興味をもつ人にとっても貴重な情報だ。単行本の企画をはじめ,『思想』,『講座 哲学』,『現代選書』,『叢書・文化の現在』,『20世紀思想家文庫』,『講座 精神の科学』,『季刊 ヘルメス』,『講座 転換期における人間』,『講座 宗教と哲学』など雑誌や大型講座,シリーズの企画にいたるまで,著者が手がけた出版物は数多い。書物刊行にいたる事情と人物模様こそこの回想記の特徴といえる。
一流意識に支えられた岩波書店において,アンチ岩波の編集を次々と実現し,若手執筆者の発掘に努めてきた,と著者はいう。無名時代の山口昌男河合隼雄中村雄二郎などはたしかにそうだろう。同時に,それは著者が岩波の編集者だったがゆえのことも大きく影響していたはずだ。本書に凝縮された多様ともみられる執筆者たちは,意外にも岩波ブランドを背負った少数の知的権威者からの人的ネットワークから大きく外れていない。