041山田昌弘著『少子社会日本――もうひとつの格差のゆくえ――』

書誌情報:岩波新書1070,iii+232頁,本体価格740円,2007年4月20日

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元アイドルグループ歌手が「できちゃった婚」をした。2004年のデータでは,女性20歳未満の結婚後出産のほとんど,20〜24歳女性の出産の3分の2近くが「できちゃった婚」だ。地域別では沖縄・九州,東北各県で多い。沖縄では嫡出(ちゃくしゅつ)第一子の半数近くに達している。この沖縄を例外として95年に比べて05年の出生数が減少している県ほど「できちゃった婚」が多い。若者の経済力(=経済状況が不振)と「できちゃった婚」とは相関があるというわけだ。
本書は,日本社会の少子化を問題にし,各種統計データや調査をもとに,実態と解決策を提起している。「できちゃった婚」ももちろん分析対象になっている。少子化の主因は,(1)若年男性の収入の不安定化,(2)パラサイト・シングル現象,この2つの「合わせ技」(交互作用)と指摘する。著者は,『パラサイト・シングルの時代』*1[asin:4480058184])でパラサイト現象を提起し,また『パラサイト社会のゆくえ』([asin:4480061959])でパラサイト現象の減少(駄洒落)にも一定注目した(パラサイト・シングル論の軌道修正)。本書は,これらの延長上に格差問題を俎上に載せて,少子化問題を論じている。少子化問題は希望格差対策だとする著者の主張は明確だ。(1)すべての若者に,希望が持てる職につけ,将来にわたって安定した収入が得られる見通しを与えること。(2)どんな経済状況の親の元に生まれても,一定水準の教育が受けられる保証。(3)格差社会に対応した男女共同参画を進めること。(4)若者にコミュニケーション力をつける機会を提供すること。
「学びからの逃走」「労働からの逃走」(内田樹)(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070413/1176457717)や「劣化」論(香山リカ)(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070503/1178168342)の問題提起は面白いが,結局出口のない迷宮に迷い込む。本書は事実の確認を通じた検証であるがゆえにその意味での面白さに欠ける。だが,若者への視線は確かだ。

*1:ちなみに,231ページの参考文献一覧では『パラサイトシングルのゆくえ』と誤記されている。