052D.バッキンガム著鈴木みどり監訳『メディア・リテラシー教育――学びと現代文化――』

書誌情報:世界思想社,vii+283頁,本体価格3,200円,2006年12月25日

メディア・リテラシー教育―学びと現代文化

メディア・リテラシー教育―学びと現代文化

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーション』第22号,東京電機大学出版局,2007年6月1日(ブログ掲載稿は最終原稿を元にしたもので,掲載稿と同一ではありません)

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本書は,カルチュラルスタディーズの影響を受けた,イギリスの研究者によるMedia Education(本翻訳ではメディア・リテラシー)論である。主としてイギリスの事例をふまえて,メディア・リテラシーの基本的目的・歴史的発展(第I部),到達水準(第II部),詳細な考察(第III部)および課題・展望(第IV部)を扱っている。
第I部は,メディア・リテラシーを現代において取り上げる理論的根拠を確定する。メディア・リテラシーを教育するとは,批判的な理解と能動的な参加の両方を発達させるものでなければならない。メディアを通して,あるいはメディアを使って教えることとは異なることになる。第II部は,教材やカリキュラムの分析を通じて,これまでのメディア・リテラシー教育を吟味している。メディアの性格から,メディア・リテラシー教育の場が学校という空間から学校を超えて越境する性格をもっていることを確認している。第III部は,著者を含むメディア研究実践によるメディア・リテラシー教育の理論モデルの提示と例証にあてられている。メディア・リテラシーは,批判的な分析と主体的に関わる創造性の両面を含んでいる。メディアの制作,言語,リプレゼンテーション,オーディアンスの要素は,メディア・リテラシーの教えと学びの相互作用にとって重要なものであることを再確認する。第IV部は,最近のデジタル技術の発展に触れながら,メディア・リテラシー教育が学校内外の応答にこそ可能性をもつことを論じている。
本書の射程は,メディア・リテラシー論にとどまっていない。議論展開がやや複雑であり必ずしも理解しやすくはないが,学習理論や認知科学とも結びつく視野の広い書物だ。