1052宇沢弘文著『経済と人間の旅』

書誌情報:日本経済新聞出版社,292頁,本体価格2,000円,2014年11月17日発行

経済と人間の旅

経済と人間の旅

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私の履歴書」(日経新聞2002年3月)と日経新聞日経産業新聞掲載の12稿(1971年〜2002年)を収録したもの。
私の履歴書」はスクラップし愛読した。再読して,社会的共通資本の淵源がゲーテにあること,スタンフォード時代の新居がヴェブレンの旧宅だったこと,フランク・ナイトが弟子のフリードマンとスティグラーに破門宣言したこと,全寮制中高一貫教育によるリベラル・アーツ教育への憧憬を確認できた。主旋律は公害問題,車社会,地球温暖化など社会的共通資本理論にいたる問題意識の深まりにおき,二部門最適成長理論による経済学者としての評価についてはごくごく控えめだ。ヴェブレンへの「すぐれた分析,透徹した直観,深い洞察」・「思想的独創性」(77ページ)とした評価とケインズの位置づけは,12稿でも一貫していた。
新聞掲載稿であることを差し引いても,ごく少数の引用文(ヴェブレンの『営利企業の理論』,「タイムズ」紙のケインズ追悼文,トービンの言葉の3例のみ)を除いて自分の言葉で書いている。宇沢の経済学批判はこれら論稿前後する『経済学の考え方』(岩波新書,1989年,[isbn:9784004300533])と重なっていた。
単行本の編集としてはいささか手抜きと思う。2014年9月18日に亡くなられたということで急ぎ編集したのだろう。なんのことはない,日経新聞掲載稿の再録である。
ついでながら,藤井隆至「新潟大学時代の宇沢弘文先生」(日本経済評論社『評論』第198号,2015年1月)には新潟大学教授時代(1989年4月から1994年3月までの5年間)のエピソードが綴ってあった。