060安斎育郎著『だまされない極意――私たちはどう生きればいいのか――』

書誌情報:日本機関紙出版センター,118頁,本体価格1,048円,2006年9月10日

だまされない極意―私たちはどう生きればいいんだろう?

だまされない極意―私たちはどう生きればいいんだろう?

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本書は2005年4月におこなわれた講演をまとめたもので,『だます心 だまされる心』(岩波新書asin:4004309549),『科学と非科学の間』(かもがわ出版asin:4480037535),『騙される人騙されない人』(同上,asin:4876998841),『不思議現象の正体を見破る』(河出書房新社asin:4309502202),『霊はあるか』(講談社asin:4062573822)など多くの類書と同様オカルト,超能力,心霊現象などの非科学性を暴いた書物だ。テレビでは依然として不思議現象を興味本位に取り上げているから,安斎の出番が減ずることは当分ない。ミステリーサークルについてはかつて大槻義彦も引っかかったことがあり,血液型占いや心霊現象などを素朴に信じている若者も驚くほど多い。
本書で触れていない「生まれ変わりの科学」についてこんな叙述があった。退行睡眠をおこなうことで過去生をよみがえらせるという実例だ。

「アロンダ……私は18歳です。建物の前に市場が見えます。カゴがあります。カゴを肩にのせて運んでいます。私たちは谷間に住んでいます。水はありません。……時代は,紀元前1863年です。その地域は不毛で,暑くて,砂地です。井戸があって,川はありません。水は,山の方から谷間に来ています。(後略)
私はびっくりした。胃がきゅっとちぢみ,部屋の中がとても暑く感じられた。彼女の見ているビジョンや思い出は,非常にはっきりしているようだった。あやふやな所はまったくなかった。名前,時代,来ているもの,木,すべてがありありとしていた。何が起こっているのだろう。その時の彼女の子供が,現在の姪などということがあり得るのだろうか。(後略)」(飯田史彦『生きがいの創造――”生まれ変わりの科学”が人生を変える――』PHP文庫,1999年9月,54-55ページ,asin:4569573142

肉体から離れた後の物質世界(要するに「あの世」)から超自然的な知を被験者に伝えるのだという。引用した被験者の独白にいま一度注目してほしい。「あやふやな所はまったくなかった」どころか,被験者の妄想でしかない致命的な誤りが一箇所含まれている。「紀元前1863年」という時代感覚がそれだ。「紀元前1863年」に生きている人間が,現在「紀元前1863年」とどうして知ることができたのだろうか。キリスト生誕を基準に時間軸をみるという認識はキリスト生誕後しばらくしてからのことだ(6世紀)。紀元前に生きていた人間が紀元前であることを知ることは絶対ありえない。
科学を振り回して不合理がなくなるほどこの世は合理的ではない。安斎にはさらに頑張ってもらい,われわれは身の回りの不合理を少しずつ摘み取っていくしかない。