503お金の歴史と脳科学の知見

NHKスペシャル「ヒューマン なぜ人間になれたのか」第4集「そしてお金が生まれた」を見た(→http://www.nhk.or.jp/special/onair/120226.html)。
狩猟採集民族であるカメルーン・バカ族では自給自足を旨とし狩猟採集したものをすべて公平に分け合う。お金成立以前の平等に分配する規範をみる。
メソポタミアの世界最古の都市テル・ブラク(シリア・ハッサケ地方)の遺跡からは同じ大きさの鉢が大量に発掘されている。この中に入れた麦がお金の役割を果たしたのではないかと言われている(紀元前3300年頃)。貨幣論でいう一般的等価物である。塩や羊もこの一般的等価物だった場所もある。
ギリシャアテナイは哲学,民主主義,演劇とともにコインを生み出した(紀元前6世紀)。このコインの発明によって流通範囲を拡大し,半永久的な耐久性を持った価値を手に入れるが,ラウレイオン銀山の衰退とともに純度を下げざるをえなくなる。古代ローマでも98%純度の銀コインの純度を下げる(紀元前1世紀)。一般的等価物から貨幣の歴史的変化とその意味を辿り,動物と区別される人間だけがもつ「交換性向」を確認し,職業分化から人口増加をもたらす発展を切り出す(アダム・スミスを想起)。お金の普及とともに共同体を解体し個人間の格差を生み,集団殺戮の痕跡をあぶり出す。
他方で,人間の脳の腹側腺条体はある実験によれば相手が目の前にいるという条件では「平等」や「公平」という金銭のやりとりの時にもっとも反応し,人間にはこうした共同性の希求がもともと備わっているとする。古代メソポタミアの都市ラガシュでは借金帳消し制度(アマギ)をつくり,お金の普及がもたらす格差の人工的リセット装置を考えていたことを紹介している。
お金は人間的振る舞いの本質と制度によって人間を人間に押しとどめ,人間をして守銭奴にするわけではない。こんなメッセージを強く感じた番組だった。