699野村宏治著『サラリーマンから女子大教授へ――夢追いなおやまず――』

書誌情報:本の泉社,191頁,本体価格1,143円,2011年11月15日発行

  • -

大手石油会社の化学系技術者が60歳定年直前に長年の夢を叶え女子大学の教授になる。履歴,業績,研究・教育ビジョンを含む「わたしの身上書」を大学の学部長や学科長に送る。その数200。夢を諦めかけた最後のダイレクト・メールに朗報が届き,女子大学教授の夢が実現する。1勝199敗である。技術者としての研究蓄積があり,学位も取得していたことと教育にかける思いが伝わったとはいえ,「白梅や夢を追ふことなほ止まず」(著者の句)までの努力はすごいの一言がふさわしい。ノートルダム清心女子大学人間生活学部の英断でもあった。
赴任した女子大学での数々のエピソードを書き綴ったものが本書の大部分を占めている。「10年近くの間,女子大学で教鞭を執ることによってわたし自身が学んだことは,大学での教育というのは,たとえ専門性の高い研究を通してであっても,最終的には学生たちに「自分の生活に直結した形で,人間として成長してもらう」ものであるべきだ」(61ページ)。化学嫌いの女子大生に化学好きになってもらう教えの実践は専門が違っても共通するものがある。講義時の感想文をいくつか再現した女子大でのエピソードは評者の実感でもあった。
趣味の俳句を生かし,句座も主宰した。俳号は「夢追いオヤジ」こと「ゆめじ」。女子大学を定年退職するときの夢は「学生たちの思い出に浸りながら書き綴って本を出すこと」(175ページ)で,こうしてその夢をこの本で実現する。70歳を迎えての夢は,「生涯,「仕事」を続けていけるすばらしさを維持するロマン」(186ページ)と「「出版の日」を,諦めないロマン」(187ページ)である。
著者の夢を追い続けるロマンはなお続いている。