228飯山雅史著『アメリカの宗教右派』

書誌情報:中公新書ラクレ(291),253頁,本体価格760円,2008年9月10日発行

アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ)

アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ)

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誰かの受け売りなのだが,アメリカ(人)を理解しようとすれば,人種(白人か非白人か),宗教(カトリックプロテスタントか),政党(民主党共和党か)の3つを知らなければならない。なるほどこれは基本中の基本。本書を読むと,アメリカ(人)の宗教をカトリックプロテスタントで見ただけではわからない「宗教国家アメリカ」の複雑さが見えてくる。
16世紀の宗教改革以来のキリスト教諸派の流れ,20世紀初頭のアメリカ・プロテスタントの大分裂,ニューディール以後のプロテスタント主流派の時代,リベラルへの反発と宗教右派の登場,レーガン登場を頂点としたモラル・マジョリティーの台頭,その後のキリスト教連合と草の根保守主義子ブッシュ福音派の結びつき,福音派の現状,とコンパクトにまとめてある。宗教右派とは中絶反対などの過激な政治運動をする宗教指導者や団体を総称している。宗教右派の最大のターゲットは中絶と同性愛の禁止だったしいまも変わらない。しかし,その実現は共和党政権下でも国レベルではなされていない。間近に迫った大統領選挙の帰趨は,いずれにしても宗教界の動向と大きく関係するだろうことがよくわかった。
四半世紀ほど前からアメリカ政界(とくに共和党)に大きな影響力をもってきた宗教右派福音派は,彼らが忌み嫌うマケインの選出を許してしまった。してみると共和党初の女性副大統領候補としてマケインによるペイリンの指名は,かつての大票田であった宗教右派の大同団結を狙ったものとも見ることができる。ペイリンの指名は,女性票の獲得もさることながら,中絶と同性愛への批判票の獲得にあると思う。