552堀内一史著『アメリカと宗教――保守化と政治化のゆくえ――』

書誌情報:中公新書(2076),iv+280頁,本体価格840円,2010年10月25日発行

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2009年1月20日オバマ新大統領の就任式では二人の牧師が祈祷した。人工妊娠中絶や同性婚に反対する保守派のリック・ウォレン牧師と黒人で合同メソジスト教会ジョセフ・ローリー牧師だ。プロテスタント牧師であることでは共通している。また,大統領就任直後大統領令を出し,ブッシュ政権時の「信仰およびコミュニティに基づくイニシアティブ」を発展させ,「信仰に基づく組織および近隣組織とのパートナーシップ」の助成金によって社会福祉事業だけでなくエイズ国際紛争対策を教会や慈善団体主導でおこなう体制を整えた。「チェンジ」を訴えたオバマだが,歴代大統領と同じように宗教と宗教団体には慎重で強かな配慮を示したのだ。
本書のテーマはアメリカにおける宗教の保守化・政治化である。ほぼ100年の軌跡を背景と保守主義運動,プロテスタント諸派の動向からまとめている。アメリカの最大勢力はプロテスタントで51.3%(成人人口,白人44.1%,黒人6.9%;2008年)であり,『聖書』の理解や人種によって主流派・福音派・黒人教会に分かれ,教会信仰ではパブテスト派教会・メソジスト派教会・ルター派教会・ペンテコステ派教会・長老派教会・回復派教会・米国聖公会・ホーリネス派教会・会衆派教会などに分かれるという。
著者は,社会問題の解決方法や進化論,「高等批評」――19世紀のドイツで始まった,『聖書』を一文芸作品と見なし,記述内容を検証する神学――をめぐる神学的な立場から二分するアメリカ・プロテスタントの歴史から繙き,プロテスタントの保守化・政治化をほぼ時代を追って描写している。
特定の教会に属していなかったアイゼンハワーが就任式前に礼拝をおこない,これ以後慣例となる。公立学校で毎朝の国旗と国家への「忠誠の誓い」で「一つの国(one nation)」の前に「神の下に(under God)」を加え,紙幣や貨幣に「われわれは神を信ず(In God We Trust)」を加えたのも彼。
公民権運動,反戦運動共産主義,教科書・同性愛・妊娠中絶などアメリカにおける政治的争点の多くが宗教(=プロテスタント)と重なっている。「神が支配する超大国アメリカの聖と俗がよくわかる。