489堤未果著『アメリカから〈自由〉が消える』

書誌情報:扶桑社新書(071),199頁,本体価格700円,20010年4月1日発行

アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)

アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)

  • 作者:堤 未果
  • 発売日: 2010/03/30
  • メディア: 新書

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オバマ政権になっても旧政権時代と変わらない政策がある。むしろじわじわと強化されている。2001年9月11日の同時多発テロ以降現実化した「テロとの戦い」がそれである。
空港セキュリティ・チェック「ミリ波レントゲンによる全身スキャナー(ミリ波スキャナー)」は2009年のクリスマス・テロ未遂事件以降ヨーロッパ諸国でも導入(試験導入を含む)されるようになった。増え続ける監視カメラも「テロとの戦い」では不可欠とされている。最新式のカメラが,シンシナティ,ケンタッキー,ロナルド・レーガン・ワシントン,スポカネ,フォード,アイダホの各空港に配備され,国内各地にはおよそ3000万台にのぼり,毎週約40億時間の映像が撮られている。航空機搭乗拒否リストが作られているのももはや周知の事実になった。
これらの背景になっているのが,2001.9.1と炭疽菌事件を契機に制定された「愛国者法(Patriot Act)」である。これによって,電話,メール,ファクス,ネットなどの全通信が連邦政府によって監視される体制が合法化された。各政府機関の情報収集が強化され共有化されるようになっただけでなく,金融機関・通信事業者は顧客情報と通信内容を,医師は患者のカルテを,図書館は利用者の貸出記録を,本屋は客の購買履歴を,各種協会は会員情報を,と個人情報を提出しなければならなくなった。
グアンタナモアフガニスタン,イランなどアメリカ以外の国での過度な尋問や拷問は,人権大国アメリカにとっては「テロとの戦い」と国民の安全保障を大義名分とした,国際法ジュネーブ条約)違反である。オバマは大統領就任直後「アメリカは,もう決して拷問はしない」と宣言した。たしかに人権大国アメリカ国内では「拷問はしない」のであって,第三国で外国籍の下請け会社スタッフによっておこなわれていることについてまでカバーするものではない。また,ブッシュが署名したテロリストを裁く非公開軍事法廷を強化する大統領命令についてもオバマは存続させている。
イラクへの自衛隊派遣については防衛庁(当時)の許可を得るという条件(「報道協定」)があったのはこれらアメリカの「テロとの戦い」の一環だった。
2010年2月25日,アメリ連邦議会は現行「愛国者法」の再承認を可決した。
オバマ政権になって強化された言論弾圧と監視。ナチス政権下のマルチン・ニーメラー牧師の詩は昔話ではない。