1140堤未果著『沈みゆく大国 アメリカ――〈逃げ切れ! 日本の医療〉――』

書誌情報:集英社新書(0785A),222頁,本体価格740円,2015年5月20日発行

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今年2月4日,オークランドでTPP署名式があった。今後各国内での承認手続が予定されている。本書はこのTPP交渉が進行中に発行され,「医療の市場開放」の意味を批判的に読み解いており,むしろ今だからこそ読むべき本である。
中曽根政権時代のMOSS協議(市場志向型分野別協議)から説きおこし,村山政権時の日米包括経済協議・対日年次改革要望書,橋本政権時の規制緩和行政改革,小渕政権時の経済戦略会議など次から次へと要求されてきた「医療の市場開放」が正念場を迎えていること,骨抜きにされながらもなんとか持ちこたえている日本の国民皆保険制度と民間保険会社が儲かる仕組みのオバマケアと歯切れがいい。
ヒトラーのやり方に擬えた経済財政諮問会議産業競争力会議,国家戦略特区諮問会議などを通した「日本版回転ドア」,TPPと国家戦略特区とは「双子の兄弟」であること,
オバマケアから抜け出し医療共済に解決策を求めるアメリカと,日本の高齢化が医療を破綻させるのではなく医療費を押し上げているのは医療技術と新薬であることをも明らかにしている。
予防医療・治療・福祉を組み合わせた佐久市,「給食革命」の東京都足立区,医療と地方創生とのかかわり(千葉県の亀田総合病院)もきちんと紹介している。
日本の医療がマネーゲームの餌食にならないようにこの本を読んでしっかりと理論武装をしておこう。