755堤未果著『政府は必ず嘘をつく――アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること――』

書誌情報:角川SSC新書147,219頁,本体価格780円,2012年2月25日発行

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「哀しい嘘」でも「冷たい嘘」でも「やさしいうそ」(以上中条きよしの「うそ」から)でもない。
本書で描かれているのは,民主主義の名の下であるいはその影で進行する「コーポラティズム」(政治と経済界との癒着)による情報操作の数々だ。「ただちに健康に影響はない」の隠蔽から復興特区,TPP,アラブの春IMFやIEAEなどの国際機関にいたるまでルポとインタビューを通して無知と無関心を超えた先に情報リテラシーと政治への関心の必要性を見ている。「折れた煙草の吸い殻であなたの嘘がわかるのよ」というわけにはいかないのだ。
アメリカの外交手法の変化についてはこうだ。「まず,ターゲットになった政府や指導者を,CNNやBBC率いる国際メディアが「人権や民主主義を侵害している」として繰り返し非難する。そして,水面下で米国が支援し,時には訓練した市民団体がツイッターフェイスブックを通して人を集め,反政府運動を起こすのだ。(改行)彼らは暴力的な行動で政府を挑発し,国際メディアがそれを「独裁者に弾圧される市民」というわかりやすい図に当てはめてイメージを広げてゆく。無防備な市民を救うという理由でNATO北大西洋条約機構)軍の武力介入が正当化され,最終的にターゲットになった政権は「民主化革命」という崇高な目的のために,内部から自然に崩壊したことにされるという仕組みだ」(104-5ページ)。現在トップニュースで報道されることが多いシリアの反政府行動は,ヨルダンからダラアを通りシリアに入国した「武装傭兵による「組織化された反乱」」を肯定的に紹介していた(127ページ)。
ウォール街デモに資金を提供したのはジョージ・ソロスだ。グルジアの「バラ革命」やエジプト革命を成功させた市民グループなどへの財政支援者でもある。「どうしても腑に落ちないニュースがあったら,カネの流れをチェックしろ」(162ページ)。東京都が被災地の瓦礫を受け入れたのも,公務員叩きが横行するのも理由がある。
大震災と原発事故後確実に進行しているものがある。大規模な情報の隠蔽,操作,統制。「9.11」以降のアメリカから学んだ著者の見立ては「3.11」以降の日本に繋がっていた。