074アントワープ王立美術館所蔵ジェームズ・アンソール展および図録

土曜の午後,愛媛県美術館に行く。
アントワープ王立美術館は14世紀から20世紀半ばまでのフランドルとベルギーの作品のコレクションをもち,世界で最も多くアンソール(1860-1949)の作品を所蔵しているという。
アンソールはフランドル絵画や19世紀のフランス印象派の影響を受け,また,表現主義やシュルレアリズム運動に影響を与えたという。今回の展示会はアンソールの代表的作品《陰謀》,《牡蠣を食べる女》,《悲しみの人》など50点ほどの作品のほか,フランドル,ベルギーのレアリスム,印象派の画家の作品50点ほどで構成し,アンソール作品の相対的評価を試みていた。
アンソールを論じるには少ない資料のコーナーもあったが,写実,グロテスク,仮面,偽善,虚飾などと表現される画家の内面を解読しようとする意図を感じることができた。アンソールは『北斎漫画』のうち一冊を入手し,入念に模写している。「武者」と「鬼」の黒チョーク模写も展示されていた。
捉えどころがないともいえる。「アンソールは,未知の世界を切り開くかわりに,過去の巨匠たちの様式ではなくヴィジョンを愛する画家であったし,また,究極の目標を定めるかわりに,身近な事象や芸術に,機知と皮肉と,そして何よりも幻視的な想像力をもって対することを楽しむ画家」(鈴木,174ページ)というわけだ。過去のアンソール展では「仮面と幻想の巨匠」(1983-84年)として,今回は「写実と幻想の系譜」として展示されるのもアンソールゆえのもの。
本年4月から来年3月まで全国を巡回する展示会である。


タイトル 執筆者など
ジェームズ・アンソールとヨーロッパ,ベルギーの美術の歴史 ヘルヴィック・トッツ
第1章 写実と反アカデミズム -
1-1 アンソールの美術アカデミーにおける古典的描写方法の習得 -
1-2 外光主義 -
1-3 アンソールとブリュッセルの仲間たちによる写実的な静物画と肖像画 -
1-4 画家は近代の真の英雄である -
1-5 近代生活のイメージ -
1-6 貧しき人びとの尊厳 -
第2章 グロテスク絵画に向けて -
2-1 光の感受性 -
2-2 線の感受性 -
2-3 ジャポニスム -
2-4 創造手段としてのあやかし -
2-5 アンソール芸術における”死の舞踊”とその他の骸骨 -
2-6 仮装 -
2-7 カリカチュア,悪魔,仮面 -
2-8 プリミティヴィスム:いわゆる15世紀の初期フランドル美術の再発見 -
2-9 諷刺 -
資料[楽譜] -
アンソール:写実と幻想とグロテスク 鈴木俊晴
ジェームズ・アンソール略年譜 -
主要参考文献 -
関連地図 -
作品リスト -