1046 H・アンナ・スー編(千足伸行監訳冨田章・藤島美菜訳)『ゴッホの手紙――絵と魂の日記――』

書誌情報:西村書店,319頁,本体価格3,800円,2012年7月14日発行

ゴッホの手紙―絵と魂の日記

ゴッホの手紙―絵と魂の日記

  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: 大型本

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ゴッホが残した手紙は弟テオ宛650通,妹ウィレミナ宛20通,画家のアントン・ファン・ラッパルト宛60通,エミール・ベルナール宛20通,合計で750通あまりある。そのうちから251通(大部分テオ宛)を選び抜粋とともに関連作品を紹介するという凝った作りだ。
自作への作品論でもあり,時々の心情の告白でもある。スケッチを描き込んだ手紙なども収録している。監訳者によれば,手紙は「ネイティブの手を借りる必要もないほど正確なフランス語」とのこと。英仏の近代文学も原語で読んでいたという。
狂気の天才とするゴッホ評を覆すべき編まれた本書には,たしかに知的センスに溢れた等身大のゴッホがいるような気がする。ミレーやドラクロワへの作品評,労働観を垣間見ることができる靴職人や農民への視点ははっきりしている。
美術市場をチューリップ・バブルになぞらえた観点はすこぶる社会科学的だ。「昨今の美術市場についてのぼくの悲観的な態度には我慢してもらいたい。というのも,きみを落胆させるつもりはまったくないからだ。ぼくは自分をこんな風に納得させている。絵画価格の異常な取引は,ますますあのチューリップ貿易に似ているというぼくの味方が正しいとしよう。そして,過去のチューリップ貿易のように,ほかの投機部門とともにこの美術市場は,今世紀の終わりまでに,それが起こってきた時と同じように比較的早くに消えてしまうと仮定しよう。(改行)チューリップ貿易は終わっても,園芸業はそのまま残る。だがらぼく自身としては,欲も悪くも,自分の庭の花を世話をする演芸かでいられれば満足なのだ」(テオ宛,1885年10月)。