1581原田マハ著『たゆたえども沈まず』

書誌情報:幻冬舎文庫(は-25-2),450頁,本体価格750円,2020年4月10日発行

  • -

'Fluchtuat nec mergitur'「たゆたえども沈まず」。パリの化身セーヌこそゴッホが描きたかったものだ。ゴッホの時代パリで活躍した日本人画商・林忠正のもとで働く加納重吉(架空の人物)が見た林,ゴッホ兄弟との繋がりからゴッホのなかの日本(浮世絵),日本のなかのゴッホを描き出した。
刈り入れ前の麦畑,真昼の跳ね橋,夜のカフェ,アルルの民族衣装の娘,郵便配達人,煌めく星座と川の夜景,アイリス,オリーブ畑などなどゴッホの作品群が目の前にあらわれてきた。
重吉がゴッホの最大の理解者・忠正にゴッホの弟テオが結婚するいきさつを話したシーン。忠正「……フィンセント(ゴッホのこと:引用者注)は,このままでは破滅するな」(315ページ)。この一言に込めた著者の思いがよくわかる。