905大谷禎之介・平子友長編『マルクス抜粋ノートからマルクスを読む――MEGA第IV部門の編集と所収ノートの研究――』

書誌情報:桜井書店,364頁,本体価格4,700円,2013年10月1日発行

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MEGAは4つの部門からなり,第II部門は「『資本論』と準備労作」で全15巻すべてが既刊である。第II部門に未収録の著作,論文,草稿が第I部門であり,全32巻のうち20巻が既刊である。第III部門は書簡であり,全35巻のうち13巻が既刊,第IV部門は抜粋,メモ,欄外書き込みなどであり,全32巻のうち13巻が既刊である。
日本人研究者が編集に関わって刊行されたMEGAは,II-11,II-12,II-13であり,さらにIV-14,IV-17,IV-18,IV-19の4巻が編集中(評者も末席に連なっている)である。本書は,MEGAと第IV部の全体像を伝え,とりわけ編集途中のIV-18についてマルクスの経済学研究,歴史研究,自然研究,日本研究について概要と意義とを考察したものである。
IV-18に収録されるのは1864年2月頃から1870年6月頃までのノートである。当時マルクス1864年創立の国際労働者協会で指導的に活動するとともに,『資本論』全3部の草稿をひとまず書き終え,第1部の初版を刊行した。その後第2部と第3部完成のための資料収集を集中的におこなった時期にあたる。マウラー,フルーベク,リービヒ,マローンなど農業,農芸化学,地質学,鉱物学など多くの文献からの抜粋がある。これらから『資本論』第3部の草稿に利用されたことになる。
地代論,「先行する諸形態」との関係,共同体をめぐるザスーリチへの手紙との関連などこれまで議論された論点と重なる部分が多い。
編集途上ながら新しく分かったことがある。マルクスの日本研究の典拠はなにかについてである。オールコック『大君の都』がそれだとする説が有力だったが,「マルクスが『資本論』で日本に言及するにさいして利用した文献はリービヒ『化学の農業および生理学への応用』第7版とそれに収録されているマローンの「報告書」,そして可能性としてメモに残されている8冊の文献」(天野光則稿の第11章「マルクスの「日本研究」の典拠について――MEGA第IV部門第18巻から――」325ページ)としていることだ。
付録として,第IV部門全32巻に収録されるマルクスの抜粋ノートの執筆時期と主要な内容,IV-18に収録されるマルクスエンゲルスの抜粋・メモ帳・メモの内容が付けられている。