1378『マルクス・エンゲルス・マルクス主義研究』第60・61合併号

〔論説〕青年マルクス肖像画(窪 俊一)

〔論説〕『賃金,価格および利潤』の成立——原手稿に基づく章構成再考。英語版,独語版の先後関係の検討——(大内初陽)

〔論説〕日本における『資本論』第1巻初版(1867)オリジナル刊本の蒐集と1920年代のマルクスブーム(大村 泉)

〔論説〕中国における『ドイツ・イデオロギー』編訳史概観——廣松版翻訳(2005)と大村/渋谷/平子によるその批判以後を中心に——(盛 福剛)

〔翻訳〕新MEGA第I部門第5巻の「解題」,「成立と伝承」関連テキスト略記一覧(大村 泉/窪 俊一/渡辺憲正 訳)

〔翻訳〕解題[新MEGA第I部門第5巻](玉岡 敦/窪 俊一/大村 泉/渡辺憲正 訳)

〔翻訳〕成立と伝承[H5:フォイエルバッハ章のための草稿の束](大村 泉/窪 俊一/渡辺憲正 訳)

【編集後記】大村 泉

マルクス・エンゲルスマルクス主義研究』第60/61合併号をお届けする。

 巻頭には窪俊一会員の「青年マルクス肖像画」を置いた。10代後半のマルクス像としては,モスクワのアルヒーフで保管されている模写がもっとも著名で書籍の表紙や切手にも使われ種々の言語の解説と共にネットで大量に拡散されている。しかし,偽物であったという。では本物はどうであったのか。窪会員の寄稿はこの興味深い議論をフォローする。

 大内初陽会員の「『賃金,価格および利潤』の成立——原手稿に基づく章構成再考。英語版,独語版の先後関係の検討——」は,『資本論』全3巻の入門書として3世紀を跨いで読み継がれてきたマルクスの作品,『賃金,価格および利潤』のオリジナルの構成が,流布版で再現されているように全14章と見るのは正しくなく,全13章であったという。大内会員はこのことを原手稿におけるマルクスの筆跡解析から明らかにし,進んでこの作品の初出が英文ではなく独文であったことなどを徹底した文献実証で解明する。マルクスのこの作品への関心は今日でも大きくさまざまな読書会や研究会の場での参照が期待される。

 大村泉会員の「日本における『資本論』第1巻初版(1867)オリジナル刊本の蒐集と1920年代のマルクスブーム」は昨年4月末に北京でマルクス生誕200年を記念して開催された国際会議の講演記録で,中国語版が中山大学(広東)の『現代哲学』(2018年第5期)に掲載されている。日本語版はこれが初出である。

 盛福剛会員の「中国における『ドイツ・イデオロギー』編集史概観—廣松版翻訳(2005)と大村/渋谷/平子によるその批判以後を中心に—」は,『ドイツ・イデオロギー』の原草稿異文の再現に関して,廣松版(1974)は,アドラツキー版の異文表記にしたがい,これを広範囲に訂正した新MEGA試作版(1972)を無視したために,『ドイツ・イデオロギー』草稿の異文研究には全く使えない無意味な版本である旨の,大村会員らの《欺減墩엷》2007 年1 月号(베懇삔옰欺썹젬북삔)での批判がその後の中国における研究史でどのように受容され定着したかを確認し,残された課題を整理している。

 玉岡敦,窪俊一,大村泉,渡辺憲正会員による巻末2つの翻訳の第1は,『ドイツ・イデオロギー』を収録する新MEGA第I部門第5巻の編集者「解題」の,第2はマルクスによる「第I章 フォイエルバッハ」編集で本論の核となるものとして想定されていた「フォイエルバッハ章のための草稿の束」についての「成立と伝承」の,全文である。両翻訳の前に両稿で駆使されている諸草稿の「略記一覧」を置き,両翻訳の後には「フォイエルバッハ章のための草稿の束」と『ドイツ・イデオロギー』の原草稿全体との関係を示す解説付き図解を掲げた。いずれも今後の『ドイツ・イデオロギー』研究において,もっとも参照が求められる文献であることから,裨益する会員が多数となることを期待する。

 2017年4月に本誌第59号を発送する際同封した下記の事務局書簡にあるとおり,本誌は本号をもって冊子体での刊行を休止する。

 「本会誌は当初,新MEGAに関係する情報をいち早く会員にお届けするという目的で刊行が開始されました。

 新MEGAにおいて,確かに『資本論』執筆に伴うノート類やマルクス晩年のノート類,そして『共産党宣言』前後の著作物等,未公刊のものが残されてはおりますものの,現時点で,『資本論』の手稿類はすべて公表されましたし,『経済学・哲学手稿』等パリ時代前後の手稿・ノート類は刊行済みです。『ドイツ・イデオロギー』も紙媒体とともに,インターネット版が遅くともここ一両年内には公開される予定です。こうした現況に鑑み,本会誌の当初の目的はすでに果たされ,役割を終えたのではないかとの判断に至りました。」

 2017年4月時点では,『ドイツ・イデオロギー』を収録する新MEGA第I部門第5巻は未刊であったが,同年11月末に刊行され,その解題等,基本文献の翻訳が本誌本号に掲載された。インターネット版(オンライン版)も同封案内にあるように本年8月に公開される。冊子体での創刊号を発行したのは1987年だから32年前になる。この32年の間に物故された会員も多数おられ,なかには,ご存命なら「まだ早い」,と叱咤激励される方もいるだろう。しかし何事にも始まりがあれば終わりの潮時がある。編集者の世代も終活や断捨離の時を迎えている。ここで幕を下ろさせて頂こうと思う。会員諸氏の長年のご協力に心から感謝する。

-関連エントリー
--窪俊一編『『ドイツ・イデオロギー』研究の新展開』→https://akamac.hatenablog.com/entry/2019/05/10/223256
--大村泉・渋谷正・窪俊一編著『新MEGAと『ドイツ・イデオロギー』の現代的探求――廣松版からオンライン版へ――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20150514/1431613368

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