850李敏著『中国高等教育の拡大と大卒者就職難問題――背景の社会学的分析――』

書誌情報:広島大学出版会,xii+249頁,本体価格3,800円,2011年3月31日発行

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中国の大卒者の就職難について「口肯(日本語漢字になく二字で一字)族」(すねかじり族:中国版パラサイトシングル),「校漂族」(キャンパス漂流族),「蟻族」は人口に膾炙していても,高等教育体制については意外に知られていない。中国には4年制大学が1,079校(教育部所属大学73校,中央省庁所属大学33校,地方政府所属大学の公立604校・同民弁47校,独立学院322校),3年制の専科大学と高等職業技術学院1,184校がある(2008年のデータ,本書23ページ)。さらに学位授与権を持たない民弁高等教育機関860校,放送大学等の成人高等教育機関400校がある。日本の私立大学に相当するのは民弁47校と独立学院322校である。中国の大学は国公立中心であるといわれるのはこうした事情によっている。
本書は中国における大卒者就職における社会的背景と政府の就職政策を詳述し,上海における調査ももとに就職経路,就職意識および進路選択を分析している。著者の見立てによれば,大卒未就職者の著しい増大の主因に高等教育の急激に拡大にみ,中国特有の戸籍制度(専科大学以上の学校に進学しさらに卒業後就職先の企業を通して都市戸籍を初めて取得できる)と人事档案制度(家族関係,進学,学業成績,就職,結婚,言動などの個人情報が記録される)に労働市場の歪みをもとめている。
かつて「海亀」と呼ばれた帰国留学生たちは,帰国するも仕事を見つけられない「海滞」も多いという。中国からの留学生たちと読み終えた本書の提起する内容はとてつもなく重く大きい。